利用者さんの送迎、ウチの施設では行なっていません。ご要望が寄せられる時もあるのですが、「申し訳ありません」とお断りしています。
ここ数年で、送迎サービスを行なう施設が増えてきました。
現在の福祉制度では、毎月の利用日数に応じて、施設に給付金が支払われる仕組み。利用者さんに来てもらわないと収入が減るため、利用促進策として送迎を行なうのです。
ウチの施設でも送迎を検討した時期があるのですが、人材も資金も足りず、断念しました。
そして、職員間で「送迎がなくても利用者さんに来てもらえる施設を目指そう」と話し合いました。できることを頑張るしかなかったのです。
ところが、不安視していた利用減少は生じませんでした。複数台のバスで送迎している大きな施設より、むしろ利用率が高くなっていたほど。
感謝の念を抱くように
理由は分かりません。送迎にマンパワーを割かなかった分、支援の質が保たれたのかも知れません。利用減少を覚悟し、職員たちの意識が向上したのかも知れません。
ただ、悪天候でもかよって来る利用者さんたちへ、感謝の念を抱くようになったことは確かです。
今では「送迎を断念してよかった」と思っている私ですが、これは事態がたまたま良い方向へ転がっただけ。
送迎というサービスが悪い訳ではありません。交通が不便な山間部などでは不可欠でしょうし。
某施設の施設長さんから聞いた話。
送迎を始めたところ、自転車や公共交通機関などでかよっていた利用者さんたちから、“移動する能力”が失われてしまったそうです。送迎車を待つことに慣れ、ペダルを踏んだり切符を買ったりする行為ができなくなったのです。
その施設長さんは「送迎は“諸刃の剣”です」と言っておられました。
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