福祉施設の施設長を務める私ですが、現場職員に代わって利用者さんやご家族と面談を行なうこともあります。
悩みを打ち明けられたり、困難な状況を聴取したりする時には、自分の力量が試されている気がします。
恥ずかしながら、私は面談が苦手です。
社会福祉士として基礎的な知識・技術は学んでいるものの、なかなか活かすことができません。面談後に「相手のためになったのだろうか…?」などと思い悩む日も。
本書の著者は、朝日新聞の人生相談コーナーの回答者。回答に至るまでの思考過程を披露しています。
著者は「思考ツール」という手法を使うそうです。「分析」「仕分け」「メーター」「共感と立場」など11種類。
相談者の本音を探り出すのが「分析」。雑多な問題を解決可能性によって選別するのが「仕分け」。分かりにくい物事を数値化して捉えるのが「メーター」。相談者の身になって考え、相談者の味方として応じるのが「共感と立場」。
これらは著者の知恵・知見の産物らしいのですが、私が学んだ知識・技術と重なるところも見られます。
“場数”を超えた経験知
思考ツールを駆使して生まれた回答は、強い説得力があり、実効性も高そう。それに、相談者の背中を優しく押すような温かみが感じられます。実際に相談者から謝意が寄せられたこともあるとか。
紙媒体での人生相談は、相談から回答への“一方通行”が基本。回答者には熟考する時間的余裕があります。また、相談者の便益よりも、読み物としての面白さが優先されるでしょう。
福祉施設での相談支援とは、多くの点で異なっています。
それでも、相談者のみならず読者をも納得させてしまう回答、その背景を知っておくことは有益です。これから自分が踏むであろう“場数”を超えた経験知が得られます。
妙な先入観を抱いてしまいそうなタイトルですが、面談に臨む者として、相談を受ける者として、気付きの多い本でした。
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