福祉作業所での支援の一環として、支援者が利用者さんに技術的な指導を行なうことがあります。
例えば、包丁を使って果物の皮をむく。例えば、厚紙を折り曲げて箱形に組み立てる。
手順をスモールステップに分解し、個々の動作を憶えてもらい、一連の作業に仕立て…。
根気や時間が要るだけに、指導がうまくいけば嬉しいものです。
しかし、指導によって技能を身に付けた、利用者さんの方はどうなのでしょうか?
「できるようにすることだけが支援ではありませんよね」
発達障害者支援に詳しい、臨床心理士の言葉です。ある研修会で聴きました。
嬉しさや喜びが見出だせるか
新たな技能を身に付けた時、反応はおおむね2種類に分かれるそうです。
ひとつは、達成感を覚えて、「やった!」「できた!」と喜ぶ反応。
もうひとつは、徒労感を覚えて、「もうこんなことはしたくない」と嫌がる反応。
私たち支援者は、しばしば前者にばかり目が向きがち。
ですが、障害のある人たちが新たな技能を習得するには、大きな努力や忍耐を要します。技能を身に付けた時点で、持てる力を出し尽くしてしまい、心身が疲弊した状態になっていることも少なくありません。
「利用者さんをよく観察して下さい。嬉しさや喜びが見出だせるならば大いに伸ばすべきですし、身に付ける“意義”が見出だされないのであれば再検討すべきです」
利用者さんの技能習得に、指導した支援者は達成感を覚えるかも知れません。
一方で、利用者さん自身が達成感を覚えているのかどうかを、支援者は把握しなければならないのです。