異業種交流会のような集まりに参加したことがあります。
さまざまな職業の人たちとの懇談は、私に少なからぬ刺激をもたらしてくれました。
そこで出会ったAさんについて書きます。
私が福祉作業所の施設長であると聞き、名刺を差し出しながら話しかけてきた人物、それがAさんでした。
飲食店を経営しているというAさんは、事業を拡大させる形で、就労継続支援A型事業所の開設を計画しているとのこと。障害のある人たちに弁当などを作ってもらい、販売するそうです。
Aさんは「福祉作業所については、まだまだ知らないことなかりなので、いろいろ教えて下さい」。
「お役に立てそうなことがあれば、何でもご協力しますよ」と私は、歓迎の意向を示しました。
障害者就労へのニーズは、地域で年々高まっています。障害のある人たちにとって、就労先の選択肢は多いに越したことはないのです。
しばらく言葉を交わし、私は「どうして福祉作業所を立ち上げようと思われたんですか?」とAさんに訊ねました。「障害のある方が身近にいらっしゃる、とか?」
すると、Aさんは「いえ。まだ接したことはないのですが。障害者と一緒に、この地域で働けたら良いだろうな、と思いまして……」。いささか歯切れの悪さが感じられる回答でした。
自分なりの価値観やイメージを
「接したことがないなら、地元の福祉施設などを訪ねて、触れ合う機会を設けるべきです。どんな人たちと働くのか、知らないままでは済まされませんから。ウチの施設に来て下さっても構いませんよ」と私は提案してみました。
Aさんは「そうですね。いずれお願いするかも知れません」と応じ、別の懇談の輪に移っていきました。
言うまでもなく、事業を始めるきっかけは、人それぞれです。身近に障害者がいなかったとしても、福祉業界へ参入することには何の問題もありません。
しかし、事業を始めるまでには、少なくとも障害者に接してみて、今後の関わり方について自分なりの価値観やイメージを持っておくべきでしょう。そこが抜けていると、事業者にとっても障害者にとっても、望ましい結果にはならないような気がします。
その後、Aさんから連絡が来ることはなかったのですが。
Aさんなりに経験を積んで、福祉作業所の設立計画を進展させてほしい……私はそう願っています。
Image by DCStudio on Freepik