現在の公教育がはらむ危うさを指摘した本。
著者は全国紙の記者。取材や実体験を通し、教育行政が何を目指そうとしてるのかを探る。
個人的に興味深かったのは、甲南大の田野教授による「ファシズムの体験学習」。
受講生たちは、同じ服装で集まり、独裁者役の田野教授へ「ハイル、タノ!」と敬礼。行進などの集団行動を練習したり、逸脱する者を非難したり、少数派を糾弾するなど、かつてナチス政権下で行なわれてたことを体験する。ながめてる分にはバカみたいだろうけど、受講生たちの方は高揚感や一体感を覚えたそうな。
参加した著者は「これは、学校の日常だ」と感得、「おそろいの制服を着て、一体化した学級の中で起きる同調圧力や、いじめる側といじめられる側が入れ替わり、だれがいじめの中心にいるのかはっきりしない無責任ないじめ。先生という『独裁者』による理不尽な校則の強要…」。
日本の学校にいるとファシズムが身に付くらしいぞ。
本書は他にも、便器を素手で磨く精神修養や、“正答”が用意されてる道徳教科、不合理な“ブラック校則”の強要など、教育現場での奇妙な事例を紹介。
“日本の伝統的子育て”を各種行事によって称揚する動きもあり、社会に「家族内での『自助』を当然とするような流れ」が生じることを著者は危惧する。多様性を尊重する価値観とは、明らかに違いますよね。
これらの背後に、著者は「規律正しい子どもが大人になれば(中略)困っていても政治に不満を言わず、ひいては社会の安定につながる。子育ても介護も家庭内で行えば、福祉予算を拡充しなくて済む。個人より国が大切だと教えれば、いざという時は、国のために命を投げ出してくれるかもしれない」という政治的な思惑を見出す。
近ごろの学校って、為政者に好都合な人材の育成施設になってる模様。
「子どもの人格の評価や形成そのものを、まるごと誰かに握られてしまう。/そんな教育、私はいやだ」と著者。私もイヤだ~。