40歳代のAさん。ウチの施設では古参の利用者さんです。
作業能力が高いとは言えないものの、何にでも積極的。毎月の工賃支給日には、ささやかな額が入った工賃袋を、嬉しそうに受け取ってくれます。
ところが、Aさんは帰宅後、工賃袋を仏壇に供えて手を合わせると…もう工賃袋には見向きもしなくなるそうです。
ご家族から、そう聞きました。
お金とは何か、どのように使うのか、使って何ができるのか…Aさんは理解していないようです。
けれど、Aさんの年齢や障害程度などを考えると、金銭への理解を進めていく支援は困難に思えます。
無駄にしない事業運営を
施設でのAさんを見れば、当人が働く喜びを知っていることが分かります。
利用者さん同士で協力する楽しさ、受け持つ作業を果たした達成感、製品を買ってもらえた時の嬉しさなどを、Aさんは経験しています。それらに価値を見出している様子もうかがえます。
Aさんにとって工賃とは、毎月の頑張りを賞して施設側から授与される“記念品”のようなものかも知れません。労働へのモチベーションは、Aさんの場合、工賃の金額からは生じないのでしょう。
労働の根本にある尊さを、Aさんは教えてくれます。
そして、Aさんの労働を無駄にしない事業運営の重要性を、施設長として痛感させられるのです。
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