私の失敗の話をします。何年も前、実習先での経験です。
失敗をきっかけに、多くの学びが得られました。これは学びの話でもあります。
実習先の施設にいた、利用者Aさん。
自閉傾向が強いせいか、周りにいる人たちへ衝動的に突っかかっていくような言動を見せることが、しばしばありました。
私が配置された実習現場にいたのが、そのAさんです。
Aさんの“突っかかり”は、エスカレートすれば他害につながるおそれも。抑制する方向へ促すことにしました。
私なりに考えて、Aさんが“突っかかり”を起こすたびに「×」で記録し、そのメモをAさんに見せながら「いけませんよ」「また『×』ですね」などと注意するという方策を実行。
Aさん自身、“突っかかり”は良くないとの認識はあるらしく、私の説諭をうなずきながら聴いてくれました。
ですが、Aさんの“突っかかり”は無くなりません。それどころか、イライラした感情を余計に募らせているようにも見えます。
自分は間違ったことをしているのでは…そんな疑念が、胸にジワリと拡がりました。
焦る私に、B施設長が声をかけてきました。「できないことばかりを指摘されるのは、誰だってつらいよね。Aさんの記録には、『×』ではなく『○』を使おうか」
単に「×」を「○」に置き換えるという提案ではありません。Aさんの「○」を見出し、記録することを、B施設長は求めていました。
最も改善されたのは
考えを改めた私は、Aさんの“突っかかり”と“突っかかり”の間…インターバルに着目しました。
Aさんの“突っかかり”に一定のインターバルが生じたら、それを「○」で記録。そのメモをAさんに見せながら「『○』が増えましたね」「時間が伸びていますよ」などと評価するのです。
メモには「○」が並んでいきます。私は記録するたびにAさんをほめました。
Aさんの言動が、これで劇的に改善したという訳ではないのですが。
それでも、メモの「○」は少しずつ着実に増え、私がほめるのでAさんの笑顔も増えていきました。
最も改善されたのは、私自身だったのかも知れません。
マイナスの評価をしながら説諭や苦言を繰り返すより、プラスの評価とともに激励や称賛を重ねていく方が、明らかに気分が良いのです。笑顔を向けられるのであれば、なおさらでしょう。
相手を前向きに評価することの大切さや、それによって何が変わるのかを、私は思い知らされました。
実習期間が終了したため、残念ながら私は、Aさんの言動の変化などを見届けることはできませんでした。
ですが、B施設長の元で支援が引き継がれたのであれば、「○」や笑顔が増えていることは間違いないはずです。
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