何万円もする大きなヌイグルミを、いきなり買って来て…。
自分の部屋なのに、ゴミ溜めみたいに散らかしていて…。
福祉専門職を対象にした権利擁護(当事者の意思表明や意思実現を支援する活動)の勉強会で、参加者たちから挙がった事例の一部です。
私自身、職場で利用者さんたちと接していて、似たような状況に直面したことがあります。
「私たちは誰の価値観に立脚しなければならないのか? そこを忘れないようにして下さい」
勉強会に助言者として参加していた方の、この言葉が心に残りました。独立型の社会福祉士で、20人以上の成年後見を務めているというベテラン。
注目すべきは、価値観そのもの
言うまでもなく、福祉専門職が立脚すべきは、利用者さん(クライエント)の価値観です。
ところが、しばしば私たちは、「支援が行ないやすいように」「周りに迷惑をかけないように」といった、支援者や家族、地域住民らの価値観を、判断に反映させてしまいます。
利用者さんは独立した人格ですから、価値観も千差万別。大多数の意思と合致していることもあれば、異常に見えてしまうこともあります。
注目すべきは、価値観の良し悪しではなく、価値観そのものでしょう。
大きなヌイグルミは、その利用者さんに深い満足感をもたらすのかも知れません。部屋が散らかっているほうが、その利用者さんは居心地が良いのかも知れません。
「支援者が『できない』と思えば、そこで支援は終わります。本当に『できない』のか、考え続ける姿勢でいて下さい」と助言者。生命の危機、生活の破綻に至るものでなければ、できるだけ利用者さんの価値観に沿うべきである…とのことでした。
支援者の「できない」は、そのまま、利用者さんの「できない」につながります。
権利擁護において、支援者に任されること、その“重さ”が感じられたような気がしました。