ウチの施設は、毎月10日が工賃支給日です。利用者さんたち1人ひとりに、前月分の工賃を渡しています。
各人の工賃額は、前月の作業時間に応じて決まります。作業時間が長ければ高額に、短ければ低額になります。
要するに、工賃は“時間給”なのですが。
就労継続支援B型事業所であるウチの施設では、いささか奇妙な現象が起きています。
精神障害のあるAさんは、スピーディーで正確な仕事ぶり。収益性が高く、難易度も高い作業に従事しています。
気分の波が大きいAさん。調子の悪い時は、作業への気力や意欲を失うことも。
知的障害のあるBさんは、手早さや緻密さが求められる作業は苦手。収益性の低い、軽めの単純作業に取り組んでいます。
Bさんの作業態度は、堅実にして安定的。いつもマイペースです。
AさんとBさん、両者の作業を“歩合給”で見ると、やや断続的ではあるものの、収益性の高い作業をこなしているAさんの方が、工賃額は高くなるでしょう。
半面、両者の作業を“時間給”で見た場合は、作業自体に取り組んでいる時間が長いBさんの方が、工賃額が高くなります。
「これでいいのだろうか?」
実際、工賃額が高いのはBさんの方です。
福祉作業所の賃金体系が“時間給”であるためです。また、同一の事業所で作業している利用者さんたちには同一の“時間給”を適用すべき、というルールも課されています。
全体の利益への貢献は、Aさんの方が大きい。作業からもたらされる収益が、それを示しています。
ですから、この状況は「実態に合っていない」「不公平である」と言えるかも知れません。
しかし、ウチのような福祉作業所の授産事業は、訓練等給付の上に成り立っており、「障害のある人たちの自立へ向けた訓練」が前提です。
作業を時間だけで評価するのではなく、利用者さんの意欲的な態度や、物事を安定的に進める姿勢なども、結果的に反映されている…と捉えることもできるでしょう。解釈としては、やや強引かも知れませんが。
施設長として、平均工賃額の積み上げに苦心する一方で。
割り切れないモヤモヤとした思いや、「これでいいのだろうか?」との疑問を抱きつつ、利用者さんたちに工賃を渡しています。