ウチの施設には飲食店が併設されています。運営スタッフは、利用者さんたちと、彼らを支援する職員です。
障害のある利用者さんたちは、能力も経験も意欲も異なりますし、心身の調子が不安定な人も少なくありません。…運営は山あり谷ありです。
このような店は福祉作業所だけだろう…と思っていたところ、一般の飲食店にもあることを知りました。
本書の著者が経営する、東京・神保町の飲食店「未来食堂」です。
この店の従業員は、著者である店主だけ。
ですが、店には「50分働くと1食無料」というユニークな仕組みがあります。おかげで、さまざまな人たちが集まり、食事のために短時間だけ労働力を提供する「まかないさん」として店を手伝っているそうです。
店側が「まかないさん」を選ぶ訳ではないので、能力も経験も意欲も異なる人たちが、毎日次々と入れ替わります。
そこで「未来食堂」では、「まかないさん」が自主的に動きつつ、運営に貢献してくれるよう、業務に工夫を加えています。
できないままでも作業できるようにする
相手にとって必要なことだけを伝える、効果的な指示の出し方。組織的な作業を促すための、助け合いのルール化。“教える”ではなく“一緒にやる”ことで、業務を引き継いでいく人材育成。…などなど。
これらの工夫が、数々の具体例とともに紹介されています。
「できない人を変えようと思うのではなく、“できないままでも作業できるようにするにはどうすればいいか”に視点を合わせる」と著者。
障害者支援にも重なる考え方です。それに基づいて書かれている本書には、福祉作業所へ応用できそうな、数多くのヒントが見付かります。
著者はまた、能力も経験も意欲も異なる人々を受け入れ、一定の成果を求める上で、リーダーとしての“自分”を見失わないための心構えについても説いています。
このあたりは、支援現場で奮闘している職員に、有用な気付きをもたらしてくれそうです。
photo credit: Thomas Hawk Chef Janice Dulce (right), FOB Kitchen, Oakland, California via photopin (license)