障害者への支援について、個々人の知見に基いた“理論”を、しばしば耳にします。
エビデンスの裏付けはないにせよ、支援者らが経験を重ねてきた上での意見であれば、傾聴に値するものも少なくありません。
先日聴いたのは、複数の事業所を束ねている法人の理事長さんの話。
それは、障害をもたらす“要因”と、そこへの働きかけについての言説でした。
理事長さんによると、障害者の障害を形成している要因は3つ。
障害特性とパーソナリティ(個性)、そして生育歴です。
このうち、障害特性は変えられません。当人の成長・加齢、または医学的処置によって変わることはあるでしょうが、福祉的支援で変化することはありません。
パーソナリティとは、例えば「背が高い/低い」「寒がり/暑がり」など。性格や気質も入るでしょう。これも支援による働きかけには向いていないとのこと。
「生育歴だけは変えることができます」と理事長さん。
この場合の「生育歴」とは、当人がこれまでの生活で身に付けてきたモノゴトを指すようです。習慣やクセ、考え方などでしょうか。
障害特性とパーソナリティを見極めて
「生育歴から生じている要素なら、支援によって負荷をかけるなどして、変化を促すことができます」として、理事長さんはひとつの事例を紹介しました。
事業所で働き始めた、新しい利用者Aさん。親御さんからは「自閉傾向が強いので、昼食は必ず正午にお願いします」との要望が寄せられていました。
ですが、その事業所では飲食店を運営しており、正午は来店者が多くて忙しいため、働いている利用者さんたちが昼食を取ることはできません。Aさんは当初、正午に昼食が出ないことでパニックを起こしました。
それでも、支援者らが地道に対応していたところ、1カ月ほど経つうちに、Aさんのパニックはなくなりました。午後1時ごろまで待って昼食を取れるようになったそうです。
Aさんが決まった時刻に昼食を取りたがるのは、障害特性によるこだわりから生じたものではありませんでした。生育歴の中で、パニックを起こせばご飯が食べられるという因果関係を、Aさんなりに理解したことによる行動であると分かったのです。
理事長さんは「当人の障害特性とパーソナリティを見極めておけば、変えられる部分、働きかけができる部分が見えてきます」と話していました。
合理的配慮の観点からは、Aさんに正午に昼食を取ってもらうべき。
しかし、この社会が人びとの相互関係で成り立っている以上、個々人への合理的配慮を重ねるばかりでは、全体の“流れ”がとどこおってしまうこともあります。
理論としての普遍性については分かりませんが、支援の現場での試行錯誤から生まれた、説得力を感じさせる知見であることは確かでしょう。
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