福祉支援についての研修では、しばしば事例検討が行なわれます。
数々のケーススタディーを通して、自分たちの支援を向上させるのが目的。
多くの事例を知るほどに、支援に活かせる“道具”が増えていく気がします。
自分の支援環境と異なる事例であっても、読書で知った事例であっても、何らかの学びは得られるものです。
本書の著者は、就労困難者の就職支援を行なっているNPO法人の理事長。
精神障害や発達障害、引きこもりなどの困難を抱えた当事者を支援し、就職へ導いてきた事例を紹介しています。
著者は「これからは『社会に人を当てはめる』のではなく、『社会が人に合わせる』番です」と主張。
自身に視覚障害があり、引きこもりなども経験したという、著者ならではの信念がうかがえます。
当事者ができることに業務を適応させる
著者によると、当事者が就労を果たすまでの歩みは、おおむね「出かけるところをつくる」「今の自分にできることを探す」「自分を活かせる会社を探す」の3段階。
まずは事業所に来てもらい、当事者の“強み”を見出し、それが活かせる職場を探すのです。
特徴的なのは、企業側の“空いている業務”を探すのではなく、当事者ができることに業務の方を適応させる、逆転の手法。
著者は企業向けに障害者雇用についてのコンサルティングも請け負っており、その一環として、各種業務から“強み”が活かせる部分を切り出すためのアドバイスをしているそうです。
「社会が人に合わせる」を体現しているような、著者の実践には感服するばかり。
多様な人材を活かすことが、より良い企業、より良い社会につながっていく…そのような確信があるのでしょう。
利益や効率を重視する民間企業と、ウチのような就労継続支援B型の福祉作業所は、いささか立場が異なります。それでも、“働く場”であるところは同じ。
支援に関する多くの気付きを、本書はもたらしてくれました。
photo credit: Homedust Grayscale Photo of Man Holding Tools – Credit to http://homedust.com/ via photopin(license)