古代中国で殷周革命を果たしたとされる、呂尚を主人公に据えた歴史小説。
遊牧民の少年・望(後の呂尚)は、一族を商(殷)王家に滅ぼされたことから、生き残った子供たちと復讐を決意。長じて望はレジスタンスを組織し、商王朝の打倒と、部族の再興を掲げ、歴史の表舞台に上っていく。
釣りをしてたところを名君に見出されて「太公望」と呼ばれたとか、かつての悪妻が復縁を迫ってきた場面での「覆水盆に返らず」など、エピソードに事欠かない人物だけど、そんな後世の付け足しらしい部分はバッサリ削除。悪虐とされる紂王も、毒婦とされる妲己も、著者は宗教的な価値観の枠内でのことと合理的に解釈する。
時代考証はしっかりなされてる印象だけど、物語には著者の独創がたくさん盛り込んである模様。
舞台となる紀元前11世紀の中国では、文字を使えるのは王侯や神職に限られ、商業の主流は物々交換、庶民は竪穴式住居で暮らしてた。
異民族を狩って祭祀の生贄にする風習があったり、軍勢の最前列に呪殺専門の巫女たちが配置されてたり、このあたりはファンタジー的なテイストも。
古代世界の“神秘”が、かえって堅実な時代考証によって浮き彫りになったみたいで面白い。
半面、氏族や宗教が異なる同士が共存できる社会を目指そうとする望には、現代に通じるテーマもうかがえる。
歴史小説の重厚さに、ファンタジーっぽい風味が加わった、イイトコ取りの快作です♪