県の発達障害者支援センターから職員さんをお招きし、施設で研修を行なった時のこと。
プロジェクターが投影するパワーポイントの画面に、英文がビッシリと浮かび上がりました。
「これは、ある作業の手順書です。何が書いてあるか分かりますか?」
職員さんの言葉に、私は首を横に振りました。他の職員たちも、首を横に振りました。
「では、読める言葉にしますね」
職員さんが手元のパソコンを操作すると、英文が日本語に変わりました。
それは、冠動脈バイパス手術を行なうための手順書でした。医学の専門用語らしい文言が並んでいます。
「これを読んで、みなさんは作業ができますか?」
またもや、私は首を横に振りました。他の職員たちも、首を横に振りました。
複雑な外科手術らしいのですが、分かることはその程度。何をどうするのか、見当もつきません。
支援の対象について知ること
「心臓に栄養を送る冠動脈が閉塞している時に、別の血管をつないでバイパスし、血液が通るようにするための手術です」と職員さん。「高度な医学的知識と、充分な経験、そして繊細な技術が必要とされます。読める言葉で書かれた手順書があっても、実際に手術ができる人は限られています」
行なうべきことを細かく指示した手順書。発達障害の支援においては重要とされます。
ところが、手順書の内容が、相手の能力が及ばないものであった場合はどうでしょう?
その人は行動できません。そればかりか、自己肯定感が低下してしまうことにもなりかねません。
私たちは、支援の技術やツールに頼る場面が多いため、それらを重視しがちです。
しかし、技術やツールを駆使するためには、支援の対象について知ること…地道なアセスメントが前提となるのです。
photo credit: Patrick J. Lynch via photopincc