アーシュラ・K・ル=グウィンの長編SF。
舞台はふたつの惑星。
ひとつは、過酷な風土の中、アナーキストたちが相互扶助によって暮らす、惑星アナレス。もうひとつは、肥沃な自然に恵まれ、資本主義経済が栄えてる、惑星ウラス。
主人公はアナレスの物理学者。ある理由から、ウラスに政治亡命する。
アナレスにいた時期と、ウラスへの亡命後が、交互につづられていく構成。
主人公の生い立ちに沿って描かれる、共産主義が純粋な形で具現化したようなアナレス社会。アナレス出身の亡命者という視点から描かれる、現代の欧米諸国にも似てるウラス社会。
ふたつの対照的な世界を旅する主人公を通して、物語は読み手に疑問を投げかけ、考えさせる。
自由とは何か? 労働とは何か? モノを所有することは幸せなのか?
本書は、「ハイニッシュ・サイクル」と呼ばれる未来史を構成する作品群のひとつ。
宇宙に進出した人類が、さまざまな惑星に植民、長い時間をかけて特異な環境に適応した遠未来の世界。両性具有者の惑星が舞台となる『闇の左手』も、この作品群に属してる。
「もしも社会が◯◯だったら…?」とか「人々が××だとどうなる…?」など、SFならではの思考実験が魅力です。