『こんな夜更けにバナナかよ』で知られるノンフィクション作家が、相模原障害者施設殺傷事件を経て、福祉の意義や障害者の価値などについて述べてる本。
世間には「障害者って、生きている価値があるんでしょうか?」「なんで税金を重くしてまで、健常者や老人を助けなくてはいけないのですか?」「どうして強い人間が、弱い人間を生かすために働かなきゃならないんですか?」なんて問う人たちがいる。
これらに対し、著者は「将来の自分自身や家族のための大切な“保険”であり、不安の少ない安定した社会をつくっていくための有益な“社会投資”であるともいえます」。合理的な回答です。
弱者にとって生きやすい社会を目指すことは有意義だし、障害者の存在には価値があるのだ。
だけど残念なことに、大多数の健全・健康な人びとは、自分が弱者に回った時のこと、年老いたり困窮した時のこと、病気や事故で障害を負った時のことに思い至らない。至っても忘れてしまう。
著者は重度障害者のボランティア介護を務めた濃密な体験や、さまざまな取材活動を通し、“助ける/助けられる”を超えた関わり合いを感得してるけど、弱者に触れたことがない人たちにどれだけ理解・共感してもらえるかは分からない。
忘れる人たちや分からない人たちは、明確な答えがあるにも関わらず、これからもシビアな疑問を繰り返すだろう。
だからこそ、意義や価値を伝える側には、不断の努力が要る。伝えられる側も、粘り強い訴えに耳を傾け、認識を新たにしていかなきゃならない。何度でも何度でも…。