ウチの施設を利用し始めたばかりのAさんについて。
私が「どんな人?」と訊くと、現場の職員たちは、古参の利用者さんを例に「フレンドリーなBさんという感じでしょうか」「Cさんを用心深くしたような印象ですね」。
支援の手法においても同様です。
「気質が似ているDさんへの方法を試してみます」「Eさんに行なった時よりも効果が薄いようです」などと返答があります。
これらは、職員たちが個々に持っている“引き出し”。
それぞれが現場で得た知見を、Aさんに対して応用しているのです。
障害者支援は個別支援が大原則。それぞれの事情に合わせて、個別の支援を行わなければなりません。
かつて私は「個別的でなければならない支援を、応用で済ませられるのか?」「一人ひとりに新しい支援を考えるべきだろうか?」などと疑問を抱いていたことがありました。
肚をくくって向き合えば
ですが、施設で働き続けるうちに、「いちいち創り出すものではなさそうだ」と思うようになりました。
それぞれの支援をゼロから考案するなど、実際には不可能です。時間的余裕もマンパワーも足りません。
しばしば「創造は組み合わせ」と言われます。
経験豊富な支援者は、新たな課題に直面した時、引き出しにストックしている知識や経験を適宜、組み合わせて当たります。それが結果的に、個別の支援となるのです。
先輩の社会福祉士に、私は「経験したことのない事例や、支援がまったく通用しない事例に出くわしたら、どうすべきでしょうか?」と訊いてみたことがあります。
「肚をくくって向き合えば、それが将来、役立つ事例になるんだよ」と先輩は答えてくれました。