障害のある人たちを支援している私ですが。
その相手が、どのような困難を覚え、どれほどに苦しんでいるのか、私には分かりません。
観察したり話を聴いたりした上で、相手の身になってみて、困難や苦しみを想像する…私ができることはそれだけです。
認知症の人たちの困難や苦しみを、分かりやすい形で提示しているのが本書。
いささかユーモラスに書かれています。認知症によって直面させられるさまざまな状況が、異郷の観光地、あるいはテーマパークのアトラクションにも似た、「顔無し族の村」や「七変化温泉」や「サッカク砂漠」などに見立てられ、それらを訪れる際のガイドブックというスタイルなのです。
焦燥感や無力感を疑似体験
直前までしていたことを忘れたり。時間の感覚を喪失したり。思うように手足を動かせなかったり。知人の顔が見分けられなかったり。
このような、心身機能の障害がもたらすトラブルを、本書では44に分類。認知症の人々約100人への聴き取りを基にしているそうです。
障害者福祉の業界で働いている私ですが、本書の内容は、大きな参考になります。
認知症による心身機能の障害は、障害のある人たちが本来抱えている特性と、少なからず共通しているからです。
障害のある人たちが日常的に向き合っている「できないこと」と、それにともなう戸惑いや焦燥感、無力感などを、本書は疑似体験させてくれます。
本書の後半には、「認知症とともに生きるための知恵を学ぶ旅のガイド」として、困難を予防したり回避したり軽減したりするためのポイントが列挙されています。
当事者の気持ちを知り、支援するための具体的な知見が、数多く見付かる一冊です。