フランスの社会学者・哲学者ブルデューが指揮し、市井の人びとに行なった聴き取り調査の本。
全3巻のうち、第1巻を読む。
本書のコンセプトは「社会は表立って表現されることのない苦しみであふれている、その声にならない苦しみに耳を傾けよう」。
インタビューの対象は、アフリカからの移民家族、低家賃住宅の管理人、商店主や市会議員、若手警官、などなどバラエティ豊か。フランス国内が多いけど、アメリカのハーレムなどでも聴き取りを行なってる。
話し言葉によるインタビュー部分と、インタビュアーが相手を分析した解説部分がセットになっていて、学術的な本にしては読みやすい。
書名に「悲惨」とあるけど、極貧層をさいなむものから、ささやかな無力感の堆積まで、多種多様。
個々人の訴えや告白を読んでると、悲惨のそれぞれは、人びとの偏見や嫌悪、反発などに、社会制度の不備や不具合、政治的な思惑なんかが絡み合った、何とも複雑なシロモノと分かる。
そんな問題を、行政やマスコミが分かりやすい形に単純化しようとすると、そのために誤解や混乱が生まれ、さらなる悲惨を招いてしまうことも。
社会問題への対処って、なかなかに厄介だぞ。
本書は悲惨の解消を目的にはしてないものの、インタビューを読んで「自分の代弁をしてくれてる」と感じた人がたくさんいたそうな。
書店でベストセラーになったり、本書を基にした舞台劇や対話集会が開かれるなど、結果的にフランス社会に大きな波紋を拡げたらしい。
悲惨な状況をどうにかしようとする前に、そこにいる人びとへ真摯に耳を傾け、理解に努めることの大切さが分かります…