沢木耕太郎の『深夜特急』に、旅人を乗せてユーラシア大陸の闇夜を走る特急列車なんか出てこない。
ところが、本書には「地下鉄道」そのものが登場する。
本来は、19世紀アメリカにおいて、黒人奴隷たちを南部諸州から逃亡させてた秘密組織を指す言葉らしい。
けれど、この物語では、蒸気機関車が走る地底トンネル網という、具体的な構造物として描かれてる。いつ誰が造ったのかは不明。ある種の“奇跡”ということかも知れない。
ジョージア州の農園で働かされてた黒人少女が、自由を得るために脱走し、地底の駅から不思議な列車に乗り込む。
道中、奴隷狩り人の執拗な追跡をかわしたり、各州で人種差別の多様な側面を目のあたりにしたり。皮膚感覚に訴えてくる生々しい描写もあれば、現実離れしてる神秘的・神話的な場面もある。
リアルに近いファンタジーというか、その逆というか。
ファンタジックな要素は、時代を超えて読者の理解や共感を呼ぶための、著者の“仕掛け”とも思える。
過酷で悲惨な逃避行と、スリルに富んだ大冒険、両者のテイストが絶妙に混ざってるところも特徴的。
おかげで、黒人奴隷の苦難を追体験させられながらも、ページをめくる手が止まらない。これも“仕掛け”に思えてくる。
アメリカという国家が抱える矛盾や欺瞞について考えさせつつ、物語として読ませる力のある佳作です♪