障害者によるアート作品の商品化を手がけている人物と、お話しする機会がありました。
その人の本職はデザイナー。ディレクター的な立場で、福祉作業所で見付けたユニークなイラストなどを、ポスターやアクセサリーに仕立て、販売しているそうです。
デザイナーさんによると「障害のある人たちのアートを扱っていると、ジレンマを覚えることがあるんです」。
首を傾げる私に、ある福祉作業所の利用者さんの事例を話して下さいました。
知的障害のあるAさん。味わいのある素朴なイラストが人気で、メモ帳やハンカチの柄などに商品展開されていました。
どこか力が抜けているようなタッチが特徴だったのですが、たくさんイラストを描いているうち、いつしかAさんの画風に変化が。ヘナヘナとゆがんでいた線がきれいに伸び、ボンヤリとしていた彩色がハッキリ塗り分けられるようになったのです。
上達し、洗練されていく
すると、Aさんのイラストは評価されなくなってしまいました。
「描く技術が向上したのです。ところが、上達したAさんのイラストは、商品として求められるものには合わなかった」と残念そうに語るイラストレーターさん。「意図的に“ヘタウマ”などを狙えるような人ではありませんから。Aさんが以前のような絵を描くことは、もうないでしょう」
作業を重ねるうちに成長する。作業が上達し、やがて洗練されていく…Aさんだけでなく、誰にでも起こり得ることです。
イラストの依頼がなくなったAさんは、福祉作業所で内職作業に専念しているとのことでした。
Aさんは成長すべきではなかったのでしょうか? 成長しない人などいませんし、成長を喜ばない人などいないはずなのに…。
答が出ない疑問をはさんで、イラストレーターさんと私は、黙り込むばかりでした。
photo credit: Merlijn Hoek Keith Haring // Kunsthal Eralda @ Rotterdam via photopin(license)