ウチの施設には飲食店が併設されています。飲み物や軽食、お菓子などを提供する、 カフェ的な店です。
働いているのは、施設に通う利用者さんたち。就労継続支援B型事業の一環なのです。
この店で給仕などを務めている利用者Aさんには、ユニークな特技があります。
職員や利用者さんらの誕生日をすべて記憶しており、それらの曜日を、Aさんは過去から未来にわたって言えるのです。
例えば、私が「15年後の施設長の誕生日は何曜日?」と訊くと、即座にAさんは「水曜日です」などと回答。インターネットなどで調べてみると、本当に当たっているのです。
AさんにはASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の特性があります。記憶などに特異な才能が見られることがあるらしいので、Aさんもそうなのでしょう。
このようなAさんに、しばしば私は、カフェに関する文章の校閲をお願いしています。情報誌などにカフェのPR記事が載る際、固有名詞や数字などに間違いがないか、事前にチェックしてもらうのです。
Aさんはミスを見逃したことはありません。特性によるものか、記憶している事柄との差異に気付きやすいようです。
中国語の間違いを発見
先日も、ウチのカフェが地域のグルメマップで紹介されることになり、いつものようにAさんがチェック。
インバウンド対応ということで、紹介文には中国語の対訳が載っていたのですが。Aさんは中国語の間違いまで指摘しました。
私は感心して「中国語なんてチンプンカンプンですよ。よく分かりましたね」。
Aさんは「ウチのハヤシライスは豚肉を使っています。でも、中国語の方には『牛』の字がありました」と教えてくれました。
ハヤシライスの対訳は「日式牛肉蓋澆飯」。これならば、「牛」と「豚」の違いには気付けたでしょう。
「どうせ中国語は分からない」と頭から決めてかかっていた私は、対訳を見ようとさえしていなかったのです。
Aさんが間違いを見付けられたのは、余計な先入観など抱かず、チェックすべき文章に向き合う、その真面目さや熱心さによるものでした。
そこにはASDの特性が作用していたのかも知れませんが。
特性ばかりに目が行き、Aさん自身の素晴らしい価値を見落とすところだった…と深く反省させられました。
photo credit: Hanafan Photo calendar of families via photopin (license)