野村総研の研究者らによる、2030年の日本を予見したリポートが本書。
この先、日本では少子高齢化が進行し、統計によると700万人もの労働力が失われるそうです。
女性や高齢者、それに障害者らをフルに活用しても、失われていく労働力を埋めることはできないとのこと。
対策として、外国人労働者の受け入れや、人工知能(AI)やロボットの導入が挙げられています。
福祉作業所の施設長としては、特に後者、AIやロボットの導入が気になります。授産作業への大きな影響が懸念されるからです。
AIやロボットが得意とするのは、決められた作業手順を繰り返すような労働。
ただ、このところの技術革新により、処理できる“手順”は高度化・複雑化し、活用範囲が拡大しています。
授産作業はAIやロボットに代替できる
福祉作業所で利用者さんたちが行なっている授産作業の多くは、AIやロボットによって代替できます。例えば、紙箱などの組み立て、資源ゴミの仕分け、郵便物の封入、建物内外の清掃など。
近年、耕作放棄地などで農業に従事する福祉作業所が注目され、“農福連携”などと呼ばれています。
ですが、昼夜を問わずに耕作や収穫をこなせるロボットが実用化されつつある昨今。農業の“経営者”は必要でも、いずれ“作業員”は必要とされなくなるかも知れません。
本書を肯定的に捉えるなら、AIやロボットの導入によって、私たちは単純労働から解放され、柔軟性や発想力が求められるクリエイティブな課題に注力できるようになる模様。
しかし、その展望の中に、障害のある人々は含まれていないような気がします。
もちろん、「障害者の授産作業を守るために、AIやロボットの導入を規制する」などと短絡することはできません。全国的な労働力の衰退が止まらなくなってしまうでしょうから。
これからの社会では、障害者のどのような労働が評価されるのでしょうか?
価値観の大きな転換が求められているように思います。
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